特許法の効力はどこまで及ぶのか(場所的範囲)~属地主義とは~

1.属地主義の概要
特許法には属地主義という考え方があります。これは、日本の特許権の効力は日本国内にのみ及ぶという考え方で、特許法など法律には明文規定がありませんが、裁判例上認められている考え方です。
例えば、最判平成9年7月1日判決(民集51巻6号2299頁/BBS事件)では、「特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである」と示されており、最判平成14年9月26日判決(民集56巻7号1551頁/カードリーダー事件)では、「我が国においては、我が国の特許権の効力は我が国の領域内においてのみ認められるにすぎない」と示されています。
属地主義を前提とすれば、日本の特許権は日本国内のみに及び、米国の特許権は米国内のみに及ぶということになります。

2.特許権における「実施」とは
特許権者は、特許権を実施する者に対して権利行使をすることができます。ここで、「実施」とは、物の発明では、特許法2条3項1号において、「その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」と定義されています。

3.権利一体の原則の概要
また、特許には権利一体の原則という考え方があり、特許の実施とは、発明の構成要件の全体の実施をいい、その一部の実施を言わないという原則です。したがって、構成要件の一部でも欠けば、特許権者は権利行使を行うことができません。

4.ネットワークを介して複数のコンピュータ上で特許発明が実施されるときの問題点とその解決(裁判例の変遷)
上記1~3を踏まえたときに、例えば、従来からあるような、物理的に存在する「物」の発明の場合、海外で製造されたとしても、最終的に日本で使用されるためには、輸入という行為が介在するため、ここで特許権侵害を問うことが考えられます。
しかし、システムの発明の場合、複数のコンピュータ上での動作を併せて一つの発明となるため、サーバはアメリカ、クライアント端末は日本ということが起こり得ます。こうすると、発明の一部はアメリカで実施され、発明の一部は日本で実施されるために、権利一体の原則によれば発明全体が日本国内で実施されていると言えず、特許権侵害が問えないという事態が生じます。
そこで、裁判例では次のような解決が試みられています。裁判例で、ドワンゴvsFC2判決というものがあります(複数の判決が存在します)。ドワンゴはニコニコ動画でおなじみの動画上にメッセージが流れる構成について特許権を取得しています。そして、FC2が同じようにFC2動画で動画にメッセージを載せて配信する行為について、ドワンゴが特許権の権利行使をしているものです。FC2は、サーバーが米国内にあるため、サーバーは米国、ユーザのクライアント端末は日本、という場合に日本の特許権に基づいて権利行使できるか、という問題になります。
東京地裁令和4年3月24日判決 では、属地主義の原則を厳格に解釈して、特許権侵害を認めませんでした。
知財高裁令和4年7月20日判決では、「実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当」として、一部が外国サーバにより実施されていても特許権侵害を認めました。
知財高裁令和5年5月26日判決でも、令和4年3月24日判決を覆し、いくつかの視点を示した上で、結論として特許権侵害を認めています。

学説では、市場地法説、すなわち、日本を対象としているか、という観点で考える考え方があり、このような要素を取り入れていると考えられます。すなわち、分かりやすく言えば、従前は、日本で実施されているか(日本にサーバーがあるか)という観点で特許権侵害の成否が検討されていたのに対し、ドワンゴvsFC2判決は、日本に向けて実施されているか、という観点で特許権侵害の成否が検討されるようになった、ということになります。