事業者間で取引する際には、秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement / CA:Confidentiality Agreement)を締結することがあります。
秘密保持契約書は、契約書は割合と定型的なものが用いられますが、立場によってどうすべきか、というものは変わってきますので注意が必要です。
なお、公的機関が公表しているひな形としては、中小企業庁の以下のようなものがあります。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/chizai_guideline.html
1.秘密保持契約の重要性
秘密保持契約も契約ですので、違反すれば債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことができる余地があります。ただし、一般的には、損害が発生していること、その金額については立証がかなり難しいという側面があります。
ただし、知的財産の観点では、例えば、特許権や意匠権を取得するためには新規性が要求されますが、秘密保持義務がない人に開示してしまうと、新規性が喪失する可能性がありますので、こういった技術情報を開示する際には、必ず秘密保持契約書の締結を検討すべきです。
2.秘密情報の定義
秘密保持契約書では、秘密情報として、以下のような定義がよく用いられます。
「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に対し、①秘密である旨を指定して書面又は電磁的方法により開示する情報、②口頭、実演、上映、投影、その他書面又は電磁的情報を提供しない方法で開示する情報であって、当該秘密情報を開示するに際し、秘密である旨を相手方に告知し、かつ、開示後30日以内に、当該情報の内容を取りまとめて秘密である旨を書面により相手方に通知した情報をいう。
上記の内容が問題が少ないですが、もし、情報を多く開示する側であれば、
「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に対して開示した一切の情報をいう
などのように規定することも考えられます。
3.行政からの開示要請がある場合の例外
秘密保持契約書では、行政からの開示要請がある場合の例外として、以下のように規定されることがあります。
国又は地方公共団体の機関から秘密情報の開示を命じられた場合、受領者は、これに応じるために当該機関に対して必要最小限の範囲内において、秘密情報を開示することができる。この場合、開示者に対し、当該命令を受けた旨を、合理的に可能な範囲で、速やかに通知する。
上記のようなものであればあまり問題ないのですが、以下のような記載だと、警察から問い合わせがあったときに、契約を守れば捜査情報の漏洩として犯人隠避罪のリスクが生じ、捜査情報の秘密を守れば契約違反になるという問題が生じます。よくある記載例ですが、これは避けた方が無難です。
法令の定めに基づき又は権限ある官公署から開示の要求があった場合は、当該法令の定めに基づく開示先に対し必要な範囲内に限り開示することができる。この場合、事前に相手方に対し通知するものとする。
4.権限の付与がないことの確認
秘密保持契約書では、開示した情報について、その利用権を与えるものではないことを確認的に規定することがあります。例えば、以下のような内容です。
通常、特許権などは、明示的に許諾しない限り、実施許諾したと考えることは困難であるため、この条項がなくとも、あまり問題はないようにも思います。ただし、AIの学習データとして用いる場合、秘密情報が出力されないように制御しつつ、何らかの学習データに用いられる場合、このような条項がない場合に、データの利用ができてしまう可能性があると思われます。
開示者から受領者に開示された秘密情報に係る一切の権利及び利益は、開示者に帰属するものとし、受領者に対する秘密情報の開示により、知的財産権その他一切の権利及び利益が受領者に譲渡されるものではなく、また、実施許諾、使用許諾その他いかなる権限も受領者に与えられるものではない。
5.秘密保持期間
秘密保持契約書では、開示した情報について、契約終了後も3年程度秘密保持義務が課されることが多いです。通常、3年程度経過すれば、情報は陳腐化してあまり価値がなくなるので問題がないのですが、そうではない重要な情報(秘密保持期間が経過してもなお重要な情報)を開示する場合には、秘密保持期間について期間を限定しない方が無難です。
本契約の終了後においても、本契約の有効期間中に開示等された秘密情報については、本契約の終了日から〇〇年間、本契約の規定(本条第1項を除く。)が有効に適用されるものとする。
秘密保持期間を限定しない場合
本契約の終了後においても、本契約の有効期間中に開示等された秘密情報については、引続き、本契約の規定(本条第1項を除く。)が有効に適用されるものとする。
6.まとめ
秘密保持契約書は割合と定型的な内容が多いので、そのまま締結することが多いのですが、よく考えておかないと問題になるケースもあります。今ではAIで契約書チェックもできるかもしれませんが、AIはプロンプトを適切に入力しなければ、「一般論として」最適な結論を返してくれるだけで、わざわざ問題提起をしてくれることはありません。可能であれば、紛争が生じてから対応するよりも、紛争が生じる前に専門家に相談した方が、費用も労力も圧倒的に少なくて済むと思います。